大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(行ケ)96号 判決

一 請求原因一ないし三の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二 そこで、本件審決の取消事由の存否につき判断する。

(一) 一致点の認定について

成立に争いのない甲第二号証によれば、本願発明の明細書中発明の詳細なる説明の冒頭には、「本発明はトランクとして搬送回線を使用する集線装置の開発に係る。」と記載されており、また、その他の記載部分からも、一見、本願発明がもつぱら集線装置に係る発明であるかにみえるが、当事者間に争いのない本願発明の要旨によれば、本願発明は、搬送通信その他の信号中継方式等を用いた集線装置により、独立した局として取扱うべき地域の加入者を、他の独立して取扱う局に集中して、同一市内帯域毎に一定の独立した交換操作を行なわせる交換方式であることが認められるから、本願発明は、加入者、電話局及びこれらの間を接続する集線装置によつて構成され、これを交換方式と指称しうることが明らかである。一方、成立に争いのない甲第三号証によれば、引用例には、その第二二頁第六図(別紙図面参照)に、搬送通信方式等を用いた集線装置が示されており、この集線装置は四九の加入者を電話局に接続して交換操作を可能にしているものであることが認められるから、引用例記載のものも、加入者、電話局及びこれらの間を接続する集線装置によつて構成されているものということができ、本願発明と同様に、これを交換方式と呼んでも何ら差支えはない。したがつて、引用例記載のものが単なる集線装置そのものであつて交換方式ではないとする原告の主張は理由がなく、本件審決がした両者の一致点の認定を誤りということはできない。

なお、原告は、本願発明の交換方式が、料金体系を異にする独立局として取扱われるべき地域の加入者を集線装置により他の独立した電話局に収容して、それぞれ同一市内帯域毎に独立した交換操作をするのに対し、引用例記載のものは、料金体系を同じくする同一加入区域(同一市内帯域)内の一部の加入者を集線装置により当該電話局に集合しているにすぎない旨主張するが、当事者間に争いのないことによつて認めうる本件審決の理由に関する説明に徴すると、本件審決は、原告の右主張につき相違点(1)、(2)にかかる考究を尽したうえ、その結論に到達したものであることが明らかであり、この点を看過しているものとも認められないし、その判断の当否については、次のとおりである。

(二) 相違点に対する判断について

(1) 相違点(1)

前掲甲第三号証によれば、引用例には、集線装置を使用することにより、農村や郊外地域に対する電話の普及、サービスの改善が可能になること、集線装置は、住宅急増地の新規加入者に対する非常用としてあるいはサービスの改善のために使用しうること並びに欧州においては、多年、集線装置がアパートや小村落の電話交換に用いられていること等が記載されているけれども、集線装置に接続される加入者が、料金体系を異にする独立した電話局として取扱うべき地域の全加入者であるとされているかどうかについて直接の記載はないことが認められる。ところで、引用例において、集線装置がアパートに使用されている場合、集線装置に接続される加入者は、独立した電話局として取扱うべき地域のごく一部の加入者であるのが通常であつて、当該アパートの加入者のみをもつて料金体系を異にする独立した電話局として取扱うべき地域の全加入者と定めることは、そのような指定が行政区画、加入者の密度等を考慮して人為的にされうるものであるにしても、きわめて非現実的なことというべきであり、したがつて、原告の主張するとおり、アパートに集線装置が使用されているとの記載のみから、直ちに、集線装置に接続される加入者を、料金体系を異にする独立した電話局として取扱うべき地域の全加入者とすることは、にわかに容易とはいい難いであろう。しかしながら、右認定のとおり、引用例には、集線装置が農村や郊外地域の電話の普及、サービスの改善に役立つ旨の記載もあり、このような地域においては、一行政区画における加入者数が少ないため、引用例の前記第六図に示されている四九程度の加入者数でも一つの独立した電話局として取扱うべき地域を構成する場合がありうることは当然に考えられるところである(成立に争いのない甲第四号証の一、五及び六によれば、日本電信電話公社においては、遅くとも昭和三四年二月当時、電話取扱局の種類を収容加入電話数の多少によつて一級局から一二級局までに分類しており、例えば、加入電話数二五以上一〇〇未満を一〇級局、三以上二四以下を一一級局、二以下を一二級局と定めていたことが認められる。)。しかも、前掲甲第三号証によれば、引用例には、独立した電話局として取扱うべき地域内の特定の一部加入者に対してだけ集線装置を設置しなければならないとか、料金体系を異にする独立した電話局として取扱うべき地域の全加入者に集線装置を設置することが不可能であることを示唆する記載は存在せず、引用例記載の集線装置の構成、機能からすれば、経済的な制約はともかく技術的には、料金体系を異にする独立した電話局として取扱うべき地域の全加入者に集線装置を設置することが不可能であるという制約はないものと認められる。

右のとおりとすれば、引用例から、集線装置に接続されている加入者を、料金体系を異にする独立した電話局として取扱うべき地域の全加入者とすることは、当業者が容易に想到しうることというべきであり、本件審決がした相違点(1)に対する判断に誤りはない。

(2) 相違点(2)

成立に争いのない乙第一号証の一ないし三によれば、マルチユニツト局とは、従来加入者の増加に伴つて一〇、〇〇〇端子毎に分局を建設していたのに対し、一局舎内に各一〇、〇〇〇端子以下の複数の分局分を統合して収容する複合局のことであり、本願発明の特許出願当時すでに広く知られていたものであるが、マルチユニツト局は、分局による複局交換の場合に比し、加入者ケーブルの心線使用率の向上、局間中継線及び局間機器の減少、中間機器の大群化、電力や床面積その他共用部分の効率的使用、要員の減少等の有利な点があるとされていることが認められる。ところで、前掲乙第一号証の二によれば、マルチユニツト局は、一つの独立した電話局として取扱うべき地域内に設けられる複数の分局を一局舎内に統合して収容しようとするものであつて、料金体系を異にする複数の市内帯域の加入者を収容しているものではないことが認められるから、マルチユニツト局は、料金体系を異にする複数の市内帯域の加入者を収容して同一市内帯域毎に一定の独立した交換操作を行なう本願発明における電話局と同一であるとはいえない。

しかしながら、右認定から明らかなとおり、マルチユニツト局は、基本的には経済性、効率性等の見地から一つの局舎内に複数の一〇、〇〇〇端子までの分局を統合して収容したものに相当するから、マルチユニツト局に統合収容されるべき複数の一〇、〇〇〇端子までの分局に相当する各部分は、具体的な機器の形としてはそれぞれ完全に独立して存在するものでなく、共用部分を有するとしても、各分局が分散配置されている場合と同様に、それぞれ一〇、〇〇〇までの加入者群を収容し、且つ各分局が行なうのと同様の交換操作を行ないうる機能を備えているものとみることができる。また、マルチユニツト局が現実には料金体系を同じくする同一市内帯域内に設けられるべき複数の一〇、〇〇〇端子までの分局を一局舎内に統合し、同一市内帯域の加入者のみを収容しているとしても、マルチユニツト局の設置あるいは単位料金区域の範囲は、行政区画、加入者分布、地理的条件、経済性等の諸事情に従つて人為的に定められることであり、技術上の観点からみる限り、右認定のマルチユニツト局の構成、機能を考慮すると、マルチユニツト局に統合収容されるべき複数の一〇、〇〇〇端子までの分局の一部として料金体系を異にする区域の分局を選定し、その区域の加入者群を収容することが不可能であるとする技術的制約は存在しないことが明白であつて、一つの局舎内に料金体系を異にする複数市内帯域の加入者を収容し、同一市内帯域毎に一定の独立した交換操作を行なわせるように構成することにつき技術上特段の困難性は認められない。さらに、右に認定したマルチユニツト局の利点は、後記(三)において認定するとおり、本願発明の作用効果とされていることと多くの点において合致していることが明らかである。してみれば、当業者にとつて、周知であるマルチユニツト局に関する技術から、本願発明における電話局のように、複数市内帯域の加入者を収容して同一市内帯域毎に一定の独立した交換操作を行なわせるものを想到することは、容易であるというべきである。

なお、原告は、マルチユニツト局が大都市中心地区において設置されるものであるから、もつぱら村落やアパート等において使用することが予定される引用例の集線装置における電話局をマルチユニツト局に想定することが容易であるとはいえない旨主張するが、前掲甲第三号証から明らかなとおり、引用例記載の集線装置及び電話局が村落やアパートにのみ設置されなければならない旨限定されているわけではなく、一方、マルチユニツト局が現実には大都市中心地区に存在するにしても、それが大都市中心地区においてしか設置しえないとする技術的制約を認めるに足る証拠はないから、原告の右主張は理由がない。

したがつて、技術的には、引用例における電話局を従来周知のマルチユニツト局に想定して、本件発明における電話局と同様の交換操作を行なうことができるように構成することは、当業者にとつて引用例及び右周知技術から容易に想到しうることであり、結局、相違点(2)に対する本件審決の判断にも誤りはない。

(三) 作用効果について

前掲甲第二号証によれば、本願発明は、搬送通信その他の信号中継方式等を用いた集線装置を構成要素とするから、加入者と電話局との間の外線施設費を節約することができるという作用効果を奏するものと認められる。しかし、右の効果は、集線装置を使用することによつて収めうるものであつて、同一市内帯域の全加入者を他の独立した近接上位局に収容したことによつてもたらされる効果ではないことが明らかである。そして、前掲甲第三号証によれば、引用例記載のものも、集線装置の使用により加入者と電話局との間の中継線その他の施設を減少し、したがつて外線施設費を節約しうることが認められるから、原告主張の(a)の作用効果は、特段のものということはできない。

次に、本願発明は、その要旨とする構成からみて、原告主張の(b)、(c)の作用効果を奏することは明らかであるが、前掲乙第一号証の二によれば、マルチユニツト局は、前記認定のとおり、局間中継線及び局内機器の減少、電力や床面積その他共用部分の効率的使用、要員の減少等の利点があるとされていることが認められるから、本願発明の(b)、(c)の作用効果は、マルチユニツト局の右利点とほぼ一致するものであつて、特段の作用効果ということはできない。

前掲甲第二号証によれば、本願発明は、原告主張の(d)、(e)の作用効果を奏するものとされていることが認められるけれども、(d)は引用例から、(e)は周知のマルチユニツト局からそれぞれ当然に予測される程度の効果にすぎないことが前掲甲第三号証及び乙第一号証の二により認められるから、これらをもつて本願発明に特段の作用効果とはしえない。

なお、原告主張の(f)、(g)及び(h)の作用効果は、本願発明の要旨として何ら限定されていない具体的な実施態様における機器の構成如何によつて左右されることであつて、本願発明の要旨とする構成から当然に収めうるものとは認められないから、これらをもつて本願発明の奏する作用効果とすることはできない。

(四) 結論

以上のとおりであるから、本願発明が引用例及び周知技術から容易に推考しうるものとした本件審決の判断は正当であつて、本件審決に原告主張のような違法はない。

三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却する。

〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。

独立した局として取扱うべき地域の加入者を、他の独立した局として取扱う局に、搬送通信その他の信号中継方式等を用いた集線装置により集中して、同一市内帯域毎に一定の独立した交換操作を行うことを特徴とする交換方式

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